11月14日、北海道大学メディア・ツーリリズム研究センターによる主催、北海道大学観光学高等研究センターによる共催のシリーズ企画「瞬間を切り取る:旅行、メディア、文化継承」の第6回として、在日コリアン3世の映画監督によるドキュメンタリー映画『えごまの国のしそ』の上映会とトークセッションが北海道大学高等教育推進機構SKY HALL(大講堂)で開催された。
今回のイベントは、映像メディアを通して「マイノリティ」の経験や記憶の継承を考える場として企画されたものであり、とりわけ在日コリアンの歴史と現在を、個人の語りと越境的な視点を介して深く共有する貴重な機会となった。上映に先立ち、パイチャゼ・スヴェトラナセンター長より挨拶があり、シリーズ企画の中で本イベントが位置づけられる意義と、今回の上映会の主旨について説明が行われた。
映画『えごまの国のしそ』は、監督自身のまなざしを起点に、家族史と日常生活を丁寧に記録したドキュメンタリーである。映像は、監督が両親や親族との対話を重ねる過程を通して、アイデンティティーがいかに継承され、また揺れ動くのかを丹念に描き出している。家族内の沈黙や語られなかった歴史、教育現場での経験などが、監督個人の記憶を越えて日本社会の構造や歴史的背景と結びつき、観客に強い印象を与えた。
上映に続くトークセッションでは、監督に加え、北海道大学に所属する芳賀恵氏(韓国語講師、翻訳者)が登壇し、ファシリテーターを務めた金知ソク氏(博士課程)とともに、作品をめぐる背景と意義について多角的な議論が展開された。セッションでは、作品を読み解くうえで欠かせない在日コリアンをめぐる歴史的文脈が提示され、さらに近年の若い世代が抱えるアイデンティティーの揺らぎなど、学術的な観点から作品の背景が丁寧に掘り下げられた。
上映後には、観客から多くの質問が寄せられ、作品に描かれた家族間の談話の意味、韓国での経験、日本社会におけるマイノリティの経験、さらには監督の今後の活動に至るまで、活発な意見交換が行われた。参加者からは、当事者の語りがもつ切実さに触れることで新たな学びや気づきを得たとの声が多く寄せられた。
今回の上映会とトークセッションは、個人の語りを通して日韓社会の歴史や構造的課題を捉え直す点において、当センターの理念とも深く響き合うものであった。『えごまの国のしそ』が示すまなざしは、在日コリアンという特定の集団にとどまる問題ではなく、私たち一人ひとりが自身の背景や社会との関係をどのように理解し、いかに語り継いでいくのかという、より普遍的な問いを投げかけている。


